耳の役割と仕組みについて
音外耳から入ってきた音は鼓膜を振動させます。振動は中耳の耳小骨を経て内耳の蝸牛に伝わり、蝸牛で振動が電気信号に変わって聴神経に送られます。それが脳に伝わることで音を聞いています。また耳は平衡感覚を認識するための器官でもあります。こうした働きを持つ耳の各部分に起きた病気により、痛みや聞こえにくさ、めまいなどの症状が現れます。
耳が痛い・聞こえにくくなる原因
耳の痛みや聞こえにくさはさまざまな原因によって起こっています。以下で、代表的な原因をご紹介します。
耳垢
皮膚の皮脂腺からの分泌物やはがれた表皮、外部から侵入したほこりなどが溜まったものが耳垢です。外耳道では奥の鼓膜付近の表皮が約1ヶ月かけて耳の穴まで移動して、最後にはがれるため、通常であれば奥に耳垢が溜まることはありません。ただし、耳垢が外耳道の途中に溜まって塞ぎ、耳栓をしているように聞こえにくくなることはあります。外耳炎になりやすく、外耳道真珠腫に進行する可能性があるため、聞こえにくくなるほど耳垢が溜まりすぎないように注意する必要があります。
なお、湿った耳垢の方と乾いた耳垢の方がいますが、これは遺伝によって決まるもので、どちらも正常です。外耳道では奥の鼓膜付近の表皮が約1ヶ月かけて耳の穴まで移動して、最後にはがれるため、通常であれば奥に耳垢が溜まることはありません。
急性中耳炎
幼児に多い病気ですが、大人もかかることがあります。耳に水が入って中耳炎になると誤解されていることが多いのですが、実際には風邪による鼻づまりが原因になって起こっています。中耳炎は、耳と鼻をつなぐ耳管という管に細菌が入って中耳で炎症を起こす病気です。そのため、風邪など感染症による鼻づまりがあると中耳炎になりやすいのです。症状の特徴としてとても強い痛みがあり、耳から分泌物が出てくることもあります。風邪を引くなど鼻づまりがあって耳が痛くなったら、耳鼻咽喉科を受診してください。
幼児の場合には症状をうまく伝えられないため、耳に触れられるのを嫌がる様子などがあったら受診してください。
滲出性中耳炎
毒性の弱い細菌などによる病気で、分泌物である滲出液が鼓膜の奥にある中耳に溜まって症状を起こします。痛みはありませんが、自分の声がこもったように聞こえるなどの聞こえにくさと、エレベーターや飛行機などで感じる耳が詰まったような感覚といった症状が特徴です。幼児の場合、呼びかけへの反応が悪くなるなど、耳が聞こえにくくなっている様子があったら受診してください。
放置すると真珠腫の形成や癒着性中耳炎に進行する可能性があります。真珠腫が形成されると骨を溶かしてしまうため、聞こえにくい症状があったら早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。
慢性中耳炎
慢性化膿性中耳炎と真珠腫があります。慢性化膿性中耳炎は、鼓膜に穴が開き、耳から分泌液が出てくる耳だれや聞こえにくさが特徴です。真珠腫も最初は聞こえにくさと耳だれの症状だけですが、進行すると骨が溶けていき、めまいや顔面神経麻痺、髄膜炎などを起こすことがあります。
風邪を引いて、聞こえにくさや耳だれの症状があったら早めに検査をうけてください。なお、真珠腫の治療には手術が必要となります。
外耳炎
外耳道、つまり耳の穴の入口から鼓膜までの間の皮膚に起こる炎症です。原因のほとんどは、耳掃除などで強くかいて皮膚が傷付き、そこから感染して起こっています。腫れや赤み、痛み、耳だれ、かゆみ、耳の詰まる感じ、聞こえにくさなどの症状があり、炎症が強いと口を開けるだけで痛くなり、眠るのもままならないほど強く痛むこともあります。細菌感染の他、カビ(真菌)による痛外耳道真菌症も外耳炎の1種です。
難聴
さまざまなタイプの難聴があり、検査でしっかり原因を突き止めることで適切な治療につながります。外耳と中耳に問題がある伝音難聴、内耳より奥に問題がある感音難聴が多く、この2つを併発しているケースもあります。また、蝸牛に問題があって難聴が起こる場合もあります。伝音難聴には手術が有効な場合もあるなど、それぞれ治療方法が違いますので、専門的な検査と診断がっじゅうようです。
耳鳴りの症状があって聞こえにくくなる、早口で話されたら聞き取りにくい、耳が詰まって聞こえにくい、音がひずんで聞こえるなどがあったら、耳鼻咽喉科をできるだけ早く受診してください。また、自分では気付かないケースがよくあるため、ご家族などからテレビの音量が大きすぎるなどと何度か指摘されることがあったら念のためにご相談ください。
耳鳴り
実際には音がしていないのに、音が聞こえる状態です。耳鳴りというと金属音や蝉のなく音をイメージしますが、そうではない音が聞こえるケースもよくあります。耳鳴りのほとんどは本人にしか聞こえていない自覚的耳鳴ですが、耳付近や耳管などで実際に何らかの音がしている他覚的耳鳴の場合もあります。
聞こえにくさを併発する場合が多いのですが、聞こえにくさが伴わない場合もあります。自覚的耳鳴は睡眠不足や疲労、ストレスなどの影響を受けることが多く、日常生活に支障が出てくることもあります。
めまい
めまいを起こす疾患の数は多いのですが、大きくわけて、平衡感覚を担う耳によるものと、脳によるものの2つに分けられます。耳鼻咽喉科で診療する耳によるめまいは、バランスを感じる三半規管に問題が起きているケースがほとんどです。
メニエール病
繰り返すめまいやめまいの持続時間が長く、耳鳴りや聞こえにくさ、耳が詰まった感じなどの症状があったらメニエール病が疑われます。メニエール病は内耳にリンパ液が溜まりすぎて起こります。めまいが数時間から半日続いたり、吐き気を伴う場合もあり、めまいの発作は数日から数ヶ月間隔で繰り返し起こり、難聴を併発することも珍しくありません。なお、数十秒から数分でおさまるめまいの場合は、メニエール病ではありません。
良性発作性頭位めまい症
内耳は耳石という器官があり、加速度を感じ取っています。この耳石が外れて、そのかけらが三半規管に入って動き回ることで平衡感覚が乱れ、めまいを生じさせます。めまいの症状を起こす中では最も多い疾患です。頭を動かした際に数十秒のめまいが起こり、安静にしていると収まり、再び動くとめまいが起こるという繰り返しが一般的な症状です。吐き気を伴う場合はありますが、意識をなくしなどはありません。
低音障害型難聴
耳が詰まっている状態や音が耳の中で響いているように感じたら、低音障害型難聴が疑われます。低音障害型難聴の症状を繰り返してメニエール病に進行するケースもあります。
症状の特徴としては低い音が急に聞こえにくくなったり、音が割れているように聞こえるなどがあります。
突発性難聴
ある日何時何分に何をしていた時に、発生した時をはっきり自覚していることが特徴の一つです。病名通り、予兆無くいきなり片方の耳が聞こえにくくなる症状が起こる、原因不明の病気です。聞こえにくさの他に、めまいや耳の詰まる感じ、めまいなどを伴う場合もあります。睡眠不足や疲労、ストレスなどにより発症しやすいとみられています。
耳が痛い、聞こえにくい症状の治療方法
耳垢
耳垢が硬く固まって、触れるだけで痛みがあるケースもありますし、無理に取ると外耳道を傷つける可能性が高いので、無理せず耳鼻咽喉科を受診してください。耳鼻咽喉科では耳垢を軟らかくする耳垢水という薬剤を使ってから取り除きますので、完全に詰まっているような場合でも痛みなく、安全に耳垢を取り除くことができます。
急性中耳炎
抗生物質の内服薬、耳に直接滴下する点耳薬による治療を行います。一般的な抗生物質が効きにくい細菌が増加しているため、細菌検査を行って適切な抗生物質を選択することもあります。
急性中耳炎は毒性の高い菌によって起こっているため、痛みや発熱などの症状が強いことがよくあります。そうした際には、鼓膜を切って膿を出す必要が生じる場合もあります。鼻と耳は耳管でつながっているため、鼻づまりが残っていると中耳炎も長引いてしまいます。鼻水の症状もしっかり消えるまで治療を受けてください。
ご注意いただきたいのは、治療を受けて痛みが収まっても、医師から指示された薬をきちんと内服し続けることの重要性です。抗生物質の内服が不十分だと細菌が抵抗力をつけ、悪化した状態で再発し、治りにくくなってしまいます。
滲出性中耳炎
内耳に溜まった滲出液は、鼻につながる耳管を通って排出されますが、鼻水が多いと滲出液がうまく鼻に抜けず、中耳炎が治りにくくなっている状態です。そこで、鼻と耳の両方の治療を受けることが重要になってきます。内服薬や処置、鼻の治療を基本的に行いますが、鼓膜を切って滲出液を排出させたり、鼓膜にチューブを入れるといった手術が必要になる場合もあります。
慢性中耳炎
一般的な抗生物質が効きにくいケースが多いため、細菌検査をして適切な抗生物質や点耳薬を使う必要があります。聴力検査で難聴の程度も調べます。
中耳を乾いた状態に保つことが重要なので、耳だれがある場合には吸引などを行います。
周囲の骨を溶かして拡がる真珠腫の場合には、CTなどで正確な病変の範囲を見極めます。で鼓膜の奥まで乾いた状態を保つようにします。
年齢や難聴の程度、病変の範囲などを考慮した上で治療方針を決めますが、手術が必要になる場合もあります。慢性中耳炎は治りにくく、根気よく治療を続けないと進行していく可能性が高いため、症状がおさまってからも定期的に受診してください。
外耳炎
一般的な抗生物質が効きにくいケースが多いため、細菌検査をして適切な抗生物質や点耳薬を使う必要があります。耳掃除による細かい傷が原因で起こるケースがほとんどなので、治癒してからも耳掃除にはご注意ください。
難聴
難聴のタイプを調べるために、聴力検査、チンパノメトリー検査、耳小骨筋反射検査などを行います。さらにCTで聴神経を確認する必要がある場合もあります。
伝音難聴は手術での治療が有効です。感音難聴(突発性難聴や老人性難聴など)の場合には、薬の処方や補聴器による治療になります。年齢やライフスタイルなどに合わせて最適な治療方針を相談しながら決めていきます。
耳鳴り
聴力検査、鼓膜の状態を調べるチンパノメトリー検査、聴神経を調べるCT検査などを行い、脳腫瘍の検査を行うこともあります。耳鳴りは原因がわからないことが多く、確立した治療法がありません。
めまい
めまいの症状を起こす疾患は数多くあるため、眼振検査や、聴力検査、CT検査、血液検査などの検査で原因を見つけていきます。めまいだけでなく、手足を動かしにくい、ろれつが回らない、意識がなくなるなどがあったら、脳が原因になっている可能性があるため、内科や脳外科の受診が必要です。
耳に原因があるめまいでは、めまいを抑える薬の内服と、安静を保つことで徐々にめまいが軽くなっていきます。
メニエール病
典型的なメニエール病の症状が現れている馬合には問診だけで判断できますが、眼振検査、難聴や耳鳴りを伴っている場合には聴力検査なども行います。内科でめまいの相談をしてメニエール病と診断されて当院を受診されるケースがよくありますが、検査をしてみると他の疾患が原因で起こっていることが珍しくありません。めまいがあったら必ず耳鼻咽喉科で専門的な検査を受けてください。
メニエール病の場合、内耳のリンパ液の溜まり過ぎを防ぐために利尿剤を使った治療を行い、場合によってステロイドを使うこともあります。再発するケースが多いので、耳の聞こえ方に違和感があったら受診するようにします。
良性発作性頭位めまい症
激しいめまいの症状があり、恐ろしい病気になったと思う方が多いのですが、実際は耳石のかけらが三半規管に入っているだけです。他の疾患がないか、聴力検査やCT検査、血液検査等を行い、眼振(がんしん)検査を行って、良性発作性頭位めまい症であると診断されたら、それほど心配する必要はありません。
めまいを軽減する薬や、三半規管の中に入ってしまった耳石のかけらを元に戻すなどの治療を行いますが、思うような効果が現れない場合もあります。めまいには安静が基本ですが、良性発作性頭位めまい症の場合、積極的に動くことで耳石が元に戻るケースもあるため、その方に合わせたアドバイスを行っています。
低音障害型難聴
蝸牛内のリンパ液が排泄障害によって多く溜まり過ぎたことが原因となっている可能性があるため、利尿剤などを使った治療を行います。ステロイドを使う場合もあります。再発する可能性があるため、普段から十分な睡眠や疲労回復、ストレスの上手な解消を心がけてください。
突発性難聴
できるだけ早く治療を受けることで、治癒の可能性も高まります。逆に治療を開始するのが遅れたり、難聴が強かったり、めまいの併発があったり、高齢である場合には治りにくいとされています。
難聴の程度を検査で確認し、状態に合わせてステロイドやビタミン剤、血流改善剤による治療を行います。ステロイドは徐々に減らしていく必要があり、急に使用を中止すると身体に大きな負担をかけてしまいますので、症状が急に改善しても医師の指示を守って継続して服用する必要があります。
突発性難聴は、一度しかならない病気ですから、難聴の症状が繰り返し出る場合には、メニエール病や聴神経腫瘍など他の病気を疑う必要があります。