鼻はデリケートで敏感
鼻は呼吸という生命維持に重要な機能を担っており、異物の侵入を防ぐ、体内に入る空気の温度や湿度の調整、においの感知といった役割も持っています。そのため、鼻は敏感であり、外部環境の影響を受けやすくなっており、ちょっとしたことが痛みにつながる場合があります。
鼻の痛みには、触れると痛い場合や、奥がツンとしみるように痛むなどがありますし、その原因もさまざまです。
鼻の痛みの症状と原因
鼻の中に起こる痛み
鼻の中や奥が痛い場合、鼻腔や副鼻腔になんらかのトラブルが起こっていると考えられます。
疾患によって起こる痛み
風邪
風邪を引いた際、特にひきはじめの時期に、鼻の奥がツンと痛む場合があります。免疫力が落ちて鼻の中の粘膜が普段より疲れていると、ウイルスが侵入しやすく、炎症を起こして痛みが生じます。
ヘルペス
ヘルペスウイルスによって皮膚に水泡ができる病気です。通常は口周辺にできますが、鼻の中や周りに発症する場合もあります。
ヘルペスウイルスはいったん治っても神経の奥に潜伏し、免疫が弱ると再発を繰り返します。基本的には安静を保って体力の回復を待ちますが、早めに受診して抗ウイルス薬での治療を受けると悪化させずに早く治る可能性が高くなります。
慢性副鼻腔炎
鼻の奥の痛みに加え、頭痛、頬や目の奥の痛みなどが伴う場合があります。これは、副鼻腔が鼻の穴周辺にある空洞であり、それが額や頬などに広がっているからです。副鼻腔炎はこの空洞が炎症を起こしています。慢性化したものは一般的に蓄膿症と呼ばれています。
風邪やアレルギー性鼻炎だと思って放置していると悪化してしまうため、鼻水や鼻の痛みが続くようでしたら耳鼻咽喉科を受診して正確な診断を受けましょう。
悪性腫瘍(がん)
副鼻腔にがんが発生することは頻度が低いのですが、進行がゆるやかで転移を起こしにくいため早期発見できたら完治も期待できます。先に喉や耳の痛みが出ることが多く、鼻に症状が出る時期にはすでに進行しているため、喉や耳の痛みなどの症状があったら念のために必ず耳鼻咽喉科を受診してください。
副鼻腔や、鼻腔の突き当りにあたる上咽頭に悪性の腫瘍ができる場合があり、代表的なものに、最も大きな空洞である上顎洞という副鼻腔にできるがんがあります。
環境が影響を及ぼして起こる鼻の痛み
アレルギー性鼻炎
水っぽい鼻水が続くようでしたら、花粉症などのアレルギー性鼻炎が疑われます。鼻水の量が増え、鼻の粘膜が炎症を起こすことで痛みが生じます。現在、日本人は約4割がアレルギー性鼻炎だとするデータもあり、誰もがかかる可能性のある病気です。スギによる花粉症など決まった季節にしか発症しない季節性のアレルギー性鼻炎と、ハウスダストなどが原因で起こる通年性のアレルギー性鼻炎があります。
鼻乾燥(ドライノーズ)
鼻の中の粘膜が乾燥し、皮がむける・かさぶたができるなどで出血し、鼻の奥が痛むことがあります。空気が乾燥する冬に多く発症しますが、点鼻薬の使いすぎや体内の水分が不足して起こる場合もあります。ただし、治療が必要ないくつかの疾患により起こっている可能性もありますので、痛みの他、鼻の乾きや鼻血などの症状がある場合には耳鼻咽喉科を受診してください。
また、鼻乾燥と診断されたら、部屋の湿度を保ったり、マスクをするなどで粘膜が乾かないよう予防しましょう。
気温・気圧の変化
気温の大きな変化にさらされた時、特に寒い場所に出た時に鼻の粘膜の血管が収縮してツンとした痛みが起こる場合があります。ひどいときには鼻血が出る場合もあるため、急激な気温の変化にさらされそうな時にはマスクなどでガードしましょう。
また、気圧の変化も鼻の奥に痛みを起こすことがあります。特に飛行機の離着陸では、鼻の奥や耳に大きな負担がかかります。副鼻腔炎や中耳炎の方が症状を悪化させるきっかけになる場合もありますので、ご注意ください。
生活習慣による痛み
鼻のかみすぎ
鼻をかむ頻度があまりに多いと、粘膜に大きな負担がかかって傷つきやすくなり痛みを生じます。鼻水を何度もかむということはすでに粘膜が炎症を起こして分泌物が増えているということです。鼻をかむこと自体はウイルスや細菌を体外に出す意味では大切ですが、力を入れすぎたり、何度も繰り返しかんでしまったりするのは大きな負担となります。
鼻水をどうしてもかんでしまう方は、耳鼻咽喉科を受診して鼻水を抑える治療を受けるのもひとつの解決方法です。
鼻毛の抜きすぎ・鼻のいじりすぎ
鼻毛を抜くことで粘膜が傷つき、感染しやすくなります。抜くよりもカットする方が安全ですが、その際も清潔な器具を使ってください。なお、鼻毛は鼻腔の奥に遺物を侵入させない役割を持っているため、あまり短く切りすぎないようこころがけておください。
鼻に触れたり、鼻をほじる癖があるr場合、爪で粘膜が傷つくリスクがあります。また、粘膜は触れることで水分を失うため、乾燥して傷付きやすくなりますのでご注意ください。
鼻ではない原因により起こる痛み
虫歯
耳鼻咽喉科で専門的な検査を行っても原因が見つからない場合、虫歯が原因となって鼻の奥に痛みが生じている可能性があります。特に上の奥歯は副鼻腔と接しており、虫歯や歯周病による菌が歯根や歯周ポケットから副鼻腔に入り込む歯性上顎洞炎を起こす場合があります。歯や歯茎にあまり症状が出ない場合もあるのでご注意ください。
鼻の表面に現れる痛み
打撲による外傷の他、ニキビやめんちょうなど皮膚トラブルの可能性があります。
打撲
鼻を強打した際に鼻が腫れることがあります。痛みが強い、あるいは傷が大きい場合には、耳鼻咽喉科か形成外科を受診してください。
ニキビ
鼻は皮脂の分泌量が最も多いため、ニキビができやすい場所です。ニキビに痛みが伴う場合、それ以上悪化せないためには皮膚科の受診をおすすめします。
めんちょう
ニキビはアクネ菌の感染によるものですが、めんちょうは黄色ブドウ球菌による炎症です。一般的には「おでき」と呼ばれており、触れると強く痛みます。1週間ほどで自然治癒するケースがほとんどですが、痛みが強い場合には皮膚科を受診して治療を受けてください。また、気になっても患部に触れるのはやめましょう。
鼻の痛みで受診が必要なケース
鼻の痛みという症状があり、放置すると悪化する恐れがある疾患には次のようなものがあります。
慢性副鼻腔炎
黄色っぽい鼻水が1ヶ月以上続いたら、慢性副鼻腔炎の可能性があります。悪化すると完治が難しくなり、生活の質を落としますのでできるだけ早く耳鼻咽喉科の受診が必要です。
治療では、鼻水の吸引や鼻の洗浄といった処置と、薬剤を霧状にして鼻や口から吸入するネブライザー療法、そして内服薬といった保存療法が基本です。症状が重い場合や、保存的療法で思うような効果が得られない場合には、患部の粘膜を吸引しながら削り取る内視鏡手術を検討します。また、副鼻腔内に鼻茸という軟らかいポリープができている場合には除去手術を行います。
悪性腫瘍(がん)
上顎洞がんの場合、手術が第一選択dす。早期がんの場合は内視鏡手術で治療できますが、がんが大きくなるほど切除範囲が広がってしまい、手術に外見上の変化を伴うリスクがあるため、精神的ダメージを考えて抗がん剤や放射線の治療を行う場合もあります。
上咽頭がんの場合、手術が位置的に困難なため、放射線治療と抗がん薬治療を組み合わせて行います。こちらは転移しやすいので、注意が必要です。
虫歯
鼻の痛みという症状が現れた段階ではすでに虫歯がかなり進行しており、完治には虫歯治療が必須です。虫歯の菌が副鼻腔に感染を起こしている場合、耳鼻咽喉科の診療を受け、抗生物質と痛み止めを服用し、副鼻腔に溜まった膿を取り除くなどの処置が必要になります。
生活習慣にも気をつけましょう
受診して以下のような原因による鼻の痛みと診断されたら、適切な治療と生活習慣に気をつけて過ごすことを心がけてください。
風邪やヘルペスの場合は、原因はウイルスです。安静にし、抵抗力を回復させることで、自然と改善されていきます。
アレルギー性鼻炎や鼻乾燥、気温・気圧の変化といった環境の影響による痛みの場合には、再発させないよう予防が重要になってきます。原因に合わせて、保湿を心がける、マスクを着用する、抗原となる花粉やハウスダストなどに極力触れないようにするなどの対策をとっていきましょう。
鼻のかみすぎ、鼻毛の抜きすぎに関しては、意識して過ごすことである程度抑えることができますが、つい鼻をいじってしまう癖がある場合、無意識で行っているため、なかなかやめることが難しいと思います。指先にテーピングをするなど、無意識に鼻に触れたら気付くようにするとかなり抑制できるようになります。